東京地方裁判所 昭和50年(ワ)70575号 判決 1976年10月29日
原告 長浜合成工業所こと 長浜政治
右訴訟代理人弁護士 萩秀雄
同 中村博一
被告 株式会社三徳
右代表者代表取締役 中村安宏
右訴訟代理人弁護士 松井孝道
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告(請求の趣旨)
被告は原告に対し金四〇六、九八〇円及びこれに対する昭和五〇年一〇月九日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
仮執行宣言
二 被告 主文と同旨の判決
第二当事者の主張
一 請求原因
1 訴外内田樹脂工業株式会社は別紙手形目録記載の約束手形一通を振出し、原告は右手形を所持している。
2 被告は昭和五〇年四月一日ころ右手形に裏書をしたが、右裏書は訴外会社の右手形金の支払について連帯保証する趣旨でなされたものであるから、被告は原告に対し右手形金の支払について手形外で連帯保証をしたものと解すべきで、被告は本件手形金について連帯保証人の責任を負う。
3 よって、被告に対し連帯保証債務の残金四〇六、九八〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五〇年一〇月九日から完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する答弁
請求原因1項は認める。2項中被告が裏書したことは認めるがその余は否認する。3項は争う。
第三証拠≪省略≫
理由
訴外内田樹脂工業株式会社が別紙手形目録記載の約束手形一通を振出し、原告が右手形を所持していることは当事者間に争いなく、原告は訴外会社に対し右手形金債権を有することは明らかである。
被告が昭和五〇年四月一日ころ右手形に裏書したことは当事者間に争いなく、≪証拠省略≫によれば、本件手形は原告が訴外会社に対し売却した商品代金として同訴外会社より振出交付を受けた約束手形を書替えたものであるが、原告はその際訴外会社の経営状態を危ぶみ、訴外会社と取引のある被告の保証を求め、被告は保証の趣旨で本件手形に裏書したことが認められる。ところで右のごとく保証の趣旨で裏書をする講学上いわゆる隠れたる手形保証をする手形の裏書人は手形の裏書人としての義務を負う点においては通常の裏書人と異なるところはなく、ただ右保証はその実質は民法上の保証であるから、催告、検索の抗弁等民法上の保証人としての抗弁を主張しうると解される。しかしながら、本件においては、≪証拠省略≫によれば本件手形は支払期日内に法定の呈示がなされていないことが認められ、裏書人たる被告に対し遡求権を失なっているのであって、このような場合に保証のため裏書をした裏書人が手形外の民法上の保証人として手形債務につき責任を負うかどうかの問題とは別に論じられるべきであり、この点は保証の趣旨でする裏書の意思解釈の問題である。保証の趣旨で裏書をする場合といえども、裏書人としては自己の債務を最少限すなわち手形の裏書人としてのみ債務を負担するに止めることを希望するのが通常であり、一方手形債権者も支払期日内に支払のための呈示をして遡求権を保全すれば支払確保の目的は達せられるところであり、また右の争点を積極に解したならば、保証の趣旨で裏書をした裏書人は同人に対する遡求権が失なわれているのにもかかわらず、常に被保証人たる振出人と同様の義務を負うことになり、その効力の範囲等に差異はあるにせよ手形の裏書に手形保証と同様の効果を認めることになり、手形理論上是認しえないところである。従って支払期日内に呈示をしなかった場合、その手形に保証の趣旨で裏書をした裏書人に対し民法上の保証人として責を負わせるためには、当事者間に特段の明確な意思表示が必要であり、これを欠くときは単に裏書人としての遡求義務のみを負担したものと解すべきであり、本件においては右特段の意思表示がなされたとの証拠はないから、民法上の連帯保証を求める原告の主張は失当であり、採用しない。
よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山崎潮)
<以下省略>